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白内障の治療

白内障とは?

眼の中には水晶体というレンズがあります。そもそもレンズという名前はレンズ豆の形に水晶体が似ていたためにこの名前が付けられました。水晶体は角膜(黒目)によって曲げられた光をさらに曲げる(屈折)ことによって網膜(フイルム)に見ているものを映し、その情報が脳に届くことによって“見える”ということになるのです。

白内障とはこのレンズが、様々な原因で濁ることによって光を通すことができなくなり、視力の低下をきたします。

原因

白内障の原因で一番多いものが加齢です。その他にはアトピー性皮膚炎などの全身の病気。ステロイドなどの薬によって生ずる場合もあります。また、環境要因としては紫外線の影響なども受けると言われています。加齢現象による白内障は、完全に防ぐことはできません。また、現状では濁った水晶体を元に戻す目薬は人間に対して開発されていません。よって、治療の第一選択は手術療法です。

主な治療:超音波乳化吸引術

 現在の白内障手術において第一選択です。強膜(白目)や角膜(黒目)に2mm程度の切れ目をつくります。その後、水晶体の前嚢という外側の膜にCCCという丸い窓を開けて、そこから超音波を発振する細い棒を入れて、硬く濁った水晶体の中身を砕きながら吸い出します。濁った水晶体を取り出した後に、眼内レンズをインジェクターというストローのような筒の中に折りたたんで、眼内に挿入します。その後、眼の中をよく洗って灌流液を眼内に入れて圧力を調節して、切開創を自己閉鎖させて終了です。基本的に、傷口は糸で縫わずに終了となります。

治療の歴史

白内障手術の始まりは、古代インドにおいて行われていた、針で白内障を眼の中に落として明るさを取り戻すというCouching法と呼ばれる治療といわれています。これが、白内障手術を開眼手術と呼ぶ所以です。日本でも平安時代には針立て法という、同様の治療が行われており、これは1800年ごろまで施行されていたといわれています。その後、眼を大きく切る(約1㎝)ことによって白内障を丸ごと取り出すという治療法が一般的となりましたが、術後の乱視(角膜のゆがみ)が大きく残り、見え方の質に関しては二の次でした。

その後、アメリカ人のケルマン医師が超音波装置を使い、眼の中で白内障の濁りを細かく砕いて吸い出すという手術法を考案してから、白内障手術は劇的に変わっていきました。切開創は3㎜程度となって術後の乱視は軽減し、白内障手術が屈折矯正手術として認識されるようになったのです。

一方、水晶体(レンズ)を取ってしまうと、牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡が必要となってしまいます。そこで、眼の中にレンズを入れるいわゆる眼内レンズ(IOL)が登場しました。この発展には第二次世界大戦が大きく関わっているといわれています。なぜなら、戦闘中にイギリス空軍のパイロットの眼の中に飛行機の風防硝子である強化プラスチック(PMMAと呼ばれるもの)の破片が入り、のちに他の疾患で眼球を取らなければならなくなった時、そのPMMAに対しての炎症反応が極めて少なく、眼の中にレンズを入れても大丈夫ではないのかという発想が生まれたのです。世界で最初に眼内にIOLを移植した医師はイギリス人のリドレーです。当初のIOLはPMMA素材であり、長年使用されていましたが、この素材は硬いため折りたたむことができず、挿入の際にはIOLの大きさまで切開創を広げる必要がありました。せっかく白内障摘出までは小さい切開創で行えても、このために術後に角膜(黒目)のゆがみが強くなり、見え方の質にこだわるレベルではありませんでした。これを解決したのが折りたたみIOLの登場です。IOLの素材がシリコンやアクリルへと変わり、IOLを折りたたんで眼の中に挿入できるようになったのです。現在では1.8~3mmと非常に小さい切開創からの手術が可能となり、術後の角膜の歪みも大幅に軽減しました。いよいよ白内障手術は単なる混濁除去術ではなくまさに屈折矯正手術となったのです。

そして、これから・・・

そして、まだまだ白内障手術は進歩し続けています。手術法としては、更なる術後の屈折の正確性を高めるため、フェムトセカンドレーザーというレーザー光線を用いて切開創や水晶体前嚢切開を作成したり、超音波による侵襲を減らすために、このレーザーであらかじめ水晶体核を切っておいたりという最新の手術が登場しています。最近の国際学会ではこのフェムトセカンドレーザーによる白内障手術が大きな話題となっています。しかし、このレーザー機器にはかなりの設備投資も必要で施術のコストも高いことから、現在我が国の保険診療において用いることができる機器ではありません。普及には今後の更なる改良が求められると思います。

一方、IOLは、数年前から広まってきた多焦点IOLと呼ばれる遠近両用IOLが登場し、白内障手術を機会に眼鏡のいらない生活を手に入れることができるようになってきています。 多焦点IOLの中で二重焦点IOLは遠方に加えて近方(約30㎝)あるいは中間(約50cm)など、もう一点に焦点が合うIOLであり、遠方以外のどこに焦点を合わせるかという選択は患者の生活スタイル、仕事や年齢に合わせて決定することとなります。日本で認可されている多焦点IOLは、この二重焦点と焦点深度を広げて遠方から中間距離までにピントが合う焦点深度拡張型(EDOF)IOL、そして数年前からは三焦点IOLが認可されました。三焦点IOLは遠方、中間、近方の三点に焦点が合うIOLであり、私は認可される前から使用経験がありますが、過去に行ってきた手術成績では患者満足度が非常に高く、眼鏡の使用率はほぼ0%という非常に良好な成績を得ています1)。しかし、これらの多焦点IOLは高額であるため、通常の保険診療だけでは使用することはできません。厚生労働省が認可した選定療養という扱いで通常の保険診療での手術治療費のほかに多焦点IOL用の検査とレンズ代が必要となります。また、海外では様々なIOLがありますが、国内で認可を受けていない最新型の五焦点IOLや調節可能IOLを使う場合にはすべてが自費診療という形になりますが、ご希望の方は一度ご相談していただければ幸いです。

また、この屈折矯正手術という考えから、白内障手術と同時に角膜の乱視も矯正することができるトーリックIOLというものも存在します。トーリックIOLは多焦点IOLよりは高額でないため保険診療内で収めることが可能であり、広く普及してきており、当院でももちろん採用しております。

文献1): 伊東和歌子、鈴木久晴、仲野裕一郎、芹澤元子、佐藤景子、伊藤由紀子、高橋浩、回折型三重焦点眼内レンズの臨床成績、あたらしい眼科 34(1)、127-131頁、2017年

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